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東京家庭裁判所 昭和48年(家)2119号 審判 1973年5月29日

申立人 南田芳夫(仮名)

事件本人 南田寿子(仮名)

主文

申立人の被後見人南田寿子のための昭和四八年五月三一日までの後見事務の報酬として金一〇〇万円を被後見人の財産中より与えるものとする。

理由

申立人は、「被後見人は後見人に対し(一)昭和四八年二月以降後見事務完了に至るまで毎月三万円づつの報酬を支払え、(二)昭和三三年一一月より昭和四八年一月末までの間の事務処理の報酬として金一〇〇万円の債権の存在することを確認せよ。」との審判を求めた。当庁昭和四四年(家)第四一九五号、四一九六号事件記録、当庁の申立人に対する後見監督記録、申立人の本件申立書および準備書面と題する陳述書ならびに申立人の審問結果によると次の各事実を認定することができる。

一、申立人と被後見人南田寿子とは姉弟の関係にあるところ、被後見人は昭和三三年頃より精神分裂病に罹患し、同女には当時青木邦男なる内縁の夫があつたが、申立人が同女の居住屋敷内に家屋を建築して、同女の面倒をみてきたこと、

二、南田寿子については当庁昭和四四年(家)第四一九五号、四一九六号事件によつて昭和四四年一〇月五日禁治産宣告、申立人を後見人に選任する旨の審判があり、これにもとづき申立人は同女の後見人に就職したこと、

三、被後見人には、当時前記青木邦男よりの土地家屋の贈与にともなう贈与税等総額金六四四万五、一九二円の負債があり、後見人に就任した申立人としてはこれの返済と被後見人の治療費ねん出のために、被後見人の財産の有利な利用策を計画し、前記土地家屋を株式会社中野組に売却し、同会社において同地上に鉄筋コンクリート造七階建分譲住宅を建築してその一階全部と別途現金四〇〇万円を提供することで右売買代金の清算をすることとし(ただし右土地のうち一三坪を駐車場用に被後見人に残す)、これにより、右金四〇〇万円の他に右一階(一〇一号一〇二号一〇三号の三室の事務室)の賃貸にともなう敷金、保証金、賃料、さらに右駐車場の賃貸にともなう敷金、賃料等をあわせて総額金八二六万二、三〇五円を取得して、前記被後見人の負債を全額順次支払を了し、現在は右賃貸による賃料収入月額合計金一九万一、〇〇〇円を得、これより被後見人の入院費用(小遣銭を含む)約金三万五、〇〇〇円、公租公課年額金四〇万円(月割約金三万三、〇〇〇円)を支弁して、残金一二万六、〇〇〇円が純益として被後見人に取得できる体制にしたこと、

四、申立人は右分譲住宅の三階の一室を前記中野組より借地権の対価として分譲を受け、妻長男とともに居住し、自らはハイヤー運転手として年額金一五三万円の収入を得ていること、そしてその余りの時間を利用して被後見人の右財産管理をしていること、

以上認定事実からすると、申立人の被後見人南田寿子に対する昭和四八年五月三一日までの後見事務のあり方としては非常に努力を要しかつ賢明なものであつたというべく、これに対し相当額の報酬を被後見人の財産中より支弁せしめるのが相当であるといわなければならない。前記認定事情および被後見人の資産ならびに後見人の資力等を勘案して、右報酬額を金一〇〇万円と定める。

なお、申立人は今後毎月金三万円宛の報酬を継続支給されることを申立てているが、本来後見人の報酬なるものは、その行つた後見事務に対して報酬の支給の是非および額を決定するを本則とすべきものと解するので、将来にわたつての報酬支給申立部分は採用しないこととする。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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